第7回ホロス2050未来会議「第7章 情報過多時代の人生論/FILTERING〜最も重要なのはフィルタリングやパーソナライズの新しい方法である〜」のアーカイブ映像(1:45:57)を限定公開いたします。公開版のサマリー映像(33:24)と併せてご活用ください。なお、当ページのURLは、会員の方のみにお知らせさせていただいております。その点にご留意いただき、URLの公開はお控えください。よろしくお願いいたします。
2017年12月14日(木)19:00から、御茶ノ水デジタルハリウッド大学において、スマートニュース株式会社執行役員の藤村厚夫さんと『ハフポスト日本版』編集長の竹下隆一郎さんをスペシャルゲストにお迎えして、第7回 ホロス2050 未来会議「 第7章 情報過多時代の人生論/FILTERING〜最も重要になるのはフィルタリングやパーソナライズの新しい方法である〜」を開催しました。
■アーカイブ映像(限定公開版/1:45:57)
■サマリー映像(公開版/33:24)
【概要】
・服部桂
最初に、発起人の服部桂より、この「ホロス2050未来会議」が、米国『WIRED』創刊編集長のケヴィン・ケリーが著した『<インターネット>の次に来るもの』の12章、12のキーワードをもとに12回シリーズで開催してきていること。そして今回は、12章のうちの7章めであるという概要説明があり、第7章の「FITLERING」については、最近話題になったスーパーコンピュータの開発会社PEZY Computingの社名「PEZY」が「Peta」「Exsa」「Zetta」「Yotta」の頭文字を集めたものであることから説き起し、我々は今、「Mega」バイトとか「Tera」バイトのハードディスクを購入できるようになったが、その千倍、千倍、千倍という容量のデータを扱う時代がこの数十年の間に確実にやってくる。そういうとてつもない量の情報を我々の脳が理解できるかというと、すべてはチェックしきれない。そうすると、もうひとつ上のレベルの思考をしていかなかなければならない。そのためには、人工知能などを使って自分に必要な情報を漉していくということが必要となってくる。そうした「フィルタリング」というテーマについて、ネットニュースをおやりになられているふたりのゲストから色々お話をしていただいた上でディスカッションしていければと思っている、といった話をしました。
・高木利弘
続いて、発起人の高木利弘が、この「第7章 FILTERING」のポイントは、①広大な万物のライブラリーを散策するには道案内が必要である。②あなたの「好み」を推奨してくれるフィルターとしてレコメンド・エンジンがあるが、このレコメンド・エンジンが今、その人の「好み」をどんどん助長し、その他の情報が存在していることもわからなくなってしまう、いわゆるフィルター・バブル(過剰適合)の問題を引き起こしている。そして、ユーザーが気づかないうちに、Google、Facebook、Twitterといったプラットフォーマーが自社の利益最大化のためのフィルタリングを行っている。そして、政府による言論統制、世論操作に使われる「検閲」装置にもなりかねない、といった様々な問題を抱えている。③ アテンション(注目)が経済を動かしているといった「Attention Economy」の観点から「フィルタリング」を分析してみると、アテンションをもとにした人々の相関マップが見えてくる。アテンションを元にしたビジネスモデルを考えてみてはどうか。④自分らしさは「経験」によって確立する、最も重要なのは我々の経験や人格を強化する新しい方法を発見することである。以上の4つであるといった解説をしました。
・藤村厚夫
続いて、SmartNewsの藤村厚夫さんが登壇。SmartNewsは「フィルタリング」の問題を2つの視点から考えている。ひとつは、社会的に色々課題があるテーマであるということであり、もうひとつはSmartNewsのコアのテクノロジーであり、人々にニュースを届けるという我々のビジネスの仕組みそのものであるということである。SmartNewsにはいわゆる「編集部」というものは存在しておらず、機械学習・AIがコンテンツを編成している。広大なコンテンツの世界から素晴らしいコンテンツ、人気のコンテンツをいかに選び皆さんにお届けするか。そこを目指して独自のフィルター技術を長い時間をかけて開発し、できるだけリアルタイムにクロールし旬なコンテンツを届けるかというところに注力している。2014年8月、ミズーリ州ファーガソンで黒人青年が警察官に射殺されたという事件が起きた。その際に、Twitterではこの事件に関連するコメントが滝のように流れているのに対して、Facebookではそういった発言がほとんど見られなかったという事実をもとに発表された論文があった。当時のFacebookは、シリアスで重い話題をニュースフィードから省き、できるだけ「いいね」がつきやすい環境にしようとしていた。二極対立の構造の中では、自分の立場を強化する情報が自分に届くという環境は非常に居心地がよく、「それみたことか、オレの言ったとおりだろう」というエコー・チェンバー現象が起きる。今や我々は、居心地のいい情報環境に慣れてしまって、耳障りの悪い情報には耐えられなくなってきている。すべての情報がフィルターを通じて届いているという事実に改めて直面する。では、自分の望んでいるものは何か、定義できるかというと定義できない。フェイクニュースの問題は、真実か真実ではないかという問題のほかに、そうした情報を欲する人々がいて、そこに燃料をくべることによって世論が動きかねないというところに、フィルターが孕んでいるひとつの危険性がある。SmartNewsとしては、内部的にもそうしたファクトチェックの仕組みを作っていくとともに、社会的なファクトチェックの体制をどう作っていくかということにも関わってきている、という話をしました。
・竹下隆一郎
続いて、『ハフポスト』編集長の竹下隆一郎さんが登壇。日々のトラフィックの流入が、GoogleからだったりTwitterからだったりと毎日違ってくる。このため、そうしたプラットフォーマーのエンジニアの発想ひとつでアルゴリズムが変わってしまうという怖さがある。たとえば、Facebookは現在、ニュースフィードよりも友だちのフィードを重視しようという実験をやっている。『ハフポスト』は17カ国で配信していて、各国の編集長と二週間に一回ミーティングをしているのだが、その影響が目に見えて起きている。いかに心地よい空間を作るかというのが彼らのミッションなので、ニュースよりは友だちがアップした美味しい料理の写真のほうがいいということになっていて、これによって私たちのビジネスモデルは大きく変わってしまう。ただひとつ救いなのは、今のところシリコンバレーの企業、GoogleとかFacebookとかは、どちらかというとリベラル寄りなことである。報道の自由とか民主主義といったものに非常に関心があり、今のところコストをかけてメディアとディスカッションをしている。しかし、彼らが関心がなくなったらと考えると恐ろしくなる。たとえば、今『ハフポスト』では、「Ladies Be Open」という企画を重視している。これは、女性の生理とか、女性のセックスの問題とか、非常にデリケートなテーマを扱っている。今、女性の働き方改革とか言われているが、女性が職場にいるということは、女性の体の悩みとかにきちんと向き合わないと、本当の意味で男女平等は実現できないのではないかという問題意識を持っているからである。ところが、これをプラットフォームに配信すると、猥褻な記事であるとして撥ねられるケースも多い。画像判定で撥ねられたり、「レイプ」とか「セックス」という言葉を使っているという理由で、相手から電話がかかってきたりしている。最近では、「MeToo」の問題が大きくクローズアップされていているので、「レイプ」という言葉が出てくる記事をよく配信している。今のところ相手が人間なので、抗弁することができ、なんとか会話が成り立っているが、これがコミュニケーション回路閉じられてしまったらと考えると、そうしたときのフィルタリングというのは非常に恐ろしい。そうなってくると、きちんとした道案内人、整理してくれる人、フェイクニュースかそうでないかを見分ける必要が出てくる。ただ、日本に関しては、もうちょっと多様な情報に触れてから整理したほうがいいのではないかと思っていて、できるだけノイズを入れていこうとしている。それが、もうひとつの編集方針である。たとえば、熊本市議会で赤ちゃん連れ議員が話題になった際に、世界で赤ちゃん連れ議員が公認されている事例を紹介し、違和感を可視化しようとした、といった話をしました。
・パネルディスカッション
パネルディスカッションでは、まず藤村さんが「ユーザーは好きなものをとことん消費しつくしたいという傾向もあり、ビジネス上はそれをやったほうがいいのだが、それでいいんだっけという分裂に苛まれることがある。日本でいえば、朝日と産経のコンテンツを入れると、どちらの支持者からも、お前のところは偏っていると言われる。アメリカでは、NYタイムズとFOX。それをどちらかに寄せたら解決するのかといえば、そんなことはない。よりよいフィルターって何だろうということが重要になってきている」と発言。それに対して竹下さんは「フィルターの問題は、過渡期の問題であり、これから時間をかけて解決していく問題だと思う」と発言。服部は「新聞は19世紀のフィルタリングである。19世紀末に電信というのが出てきて、当時にすれば今のインターネットに匹敵するぐらい情報があふれた。それを、この情報は一面に大きく載せて、といったように並べて、整理した分のお金をいただいてきた」と指摘。続いて、高木の「たとえば、山でいい道案内に出会えるかどうかは死活問題。ところが今のインターネット上の道案内はそうなっていないのではないか。ネット上でも今、スロー・ニュースが話題になっている。そのあたり、どう思うか?」という問いかけに対して、竹下さんは「『ハフポスト』では「エバーグリーン」と読んでいるのだが、そうした過去の記事が何度も読み直されるという現象が起きている。そして、長い記事をじっくり読むという傾向も出てきている。ただ、書籍が最大のスロー・ニュースだと思うので、今後、書籍がもっと高級なコンテンツとして残ってほしいと思っている」と回答。服部は「何のためにニュースを読んでいるかというと安心を得るためである」という本質論を展開。竹下さんは「スマートフォンの小さな画面は、インターネットを矮小化した。過渡期のものであると思う。今後、車の運転が自動化されると、移動の時間にじっくりニュースを見るとか、そうなってくるのではないか」と述べました。続いて、高木が「ケヴィン・ケリーの指摘したアテンション・エコノミーの観点からすると、『ハフポスト』より十代の女の子のほうがアテンションがあるといったことも出てきている。それについてどう思うか?」という問いかけをし、それに対して、竹下さんは「確かに、そうした現象は起きてきている。ただ、個人でアテンションを維持するのは大変だなと思う」。藤村さんは「アテンション・エコノミーから切断される必要性が高まってきているのではないかと逆説的に思っている」と回答しました。続いて、服部の「情報を消費したい、目立ちたいという人間の本姓は昔から変わっていない。そこをどう考えるか?」という問いかけに対して、竹下さんは「目立ちたいということについて、日本の広告はキャンペーン主義。とにかくバズらせようという傾向が強い。米国の場合、もっとじっくり、3年かけてブランドを浸透させようという、本来の意味におけるPR、パブリック・リレーションという活動を行なっている」。藤村さんは「情報って、便利であってほしいというのがある。たとえば、自分は巨人ファンで、勝ったか負けたかを教えてほしい。それを解説されても困るんだけど、というのがある。天気予報でも、家を出るときに、スマホが傘持っていったほうがいいですよ、と言ってくれれば感謝するけど、お天気キャスターがじっくり解説していると、出かけるまでに間に合わないということがある。サービスとしてのニュース、サービスとしての情報という観点からすると、もっと便利になりようがあるし、もっと価値がつきやすい方法があるのではないか」。竹下さんは「職場に赤ちゃんがいるとか、リアルな場で他者と出会うという体験は、まだまだネットでは体験できない」と回答しました。最後に、高木の「人格形成という観点からすると、断片的な情報を投げつけられている状況の中では人格は形成されない。それについてどう思うか?」という問いかけに対して、藤村さんは「人間の人格はモードによって変わってくる、あるいは変わることを強制されている。そうしたことを可視化していくことが重要ではないか」。竹下さんは「今は人格を形成するというよりは、もっと動的な状態を維持しようとしている。世の中を変える人というのは、変わった人が多い。そういう人をフィルタリングしないでいることが大切ではないか」と結びました。
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